いつか訪れてみたい場所のひとつに、福岡の里山にある古民家レストラン「御料理 茅乃舎」があります。「茅乃舎」といえば、「だし」が思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。私も最初は「茅乃舎のだしセット」をギフトでいただいて、だしの奥深さと使い勝手の良さに、すっかりファンになったのでした。
中でも驚いたのが、フリーズドライのお味噌汁。素材や無添加にこだわるブランドでありながら、手軽なインスタントと掛け合わせ、しかも風味抜群の美味しいお味噌汁になっていることに、感動を覚えました。魔法のようなお味噌汁を届ける「茅乃舎」とはいったい、どんなブランドなのでしょうか。ちょっと深堀してみました。
本物の“だし”を身近に〜「茅乃舎」のあゆみ
茅乃舎の始まりは、福岡県久原村(現・糟屋郡久山町)で明治26(1893)年に創業した醬油蔵。初代当主はこの久原村の村長でもあったそうです。以来調味料メーカーとして歩んできた「久原本家(くばらほんけ)」が、平成17(2005)年にレストラン「御料理 茅乃舎」をオープンしました。
レストラン開業のきっかけは、四代目である(河邉哲司)社長がイタリアの「スローフード運動」に出会ったことだと言います。1980年代頃のイタリアから「伝統的な食文化の保護」「質の良い食材を供給する小規模生産者の保護」「食に関する教育」を指針に、全世界へ広がった運動です。ヨーロッパにも押し寄せた「ファストフード」の波に対する危機感から生まれたようです。
流れを受け、福岡の地で「地元の食材を守り、食文化を後世に伝える」という思いを形にしたのが、茅葺き屋根の「御料理 茅乃舎」。蛍舞う清流近くの里山にあって、旬の素材選び、丁寧な料理、おもてなしの心がたちまち評判を呼び、そんな「お店の味を家庭でも使いやすく」と生まれたのが「茅乃舎だし」という訳です。
「茅乃舎だし」シリーズは、国産の素材を厳選し、化学調味料・保存料は一切使いません。こだわりと美味しいを追求しながらもパック入りで使いやすく、人気を集めました。九州の郷土料理などでも定番の「焼きあご(飛び魚)」を使っているのも特徴です。 通販事業が順調に育って、平成22(2010)年には六本木の東京ミッドタウンに東京初出店、以来ここ10年で全国各地へ急拡大しているので、知名度もその品質も多くの人の知るところとなりました。
ユネスコ無形文化遺産「和食」
一方で 2013年12月、「和食」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の【無形文化遺産】に登録されたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
日本政府はユネスコ登録申請にあたって「和食」の4つの「特徴」をあげています。
- 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
- 栄養バランスに優れた健康的な食生活
- 自然の美しさや季節の移ろいの表現
- 年中行事との密接な関わり
このように、自然を尊重する心にもとづく食慣習が伝統的に受け継がれている文化が、評価されているのです。
私たちも無形文化遺産を受け継ぐ者の一人として、心得ておきたいものばかり。成長する過程で、家庭内や学校、地域の行事などから、和食の価値観を多少なりとも持っているな、と改めて気付かされました。普段忘れてしまいがちですが、茅乃舎のコンセプトともしっかり合致していて、思い出させてくれました。
「和食」を家庭で味わうハードル
「和食」の素晴らしさを知っていながらも、毎日の食卓は、和・洋・中華の簡単料理にお惣菜、子どもの好物は和食とは程遠いものばかり……というのが現実です。「和食」はよく「一汁三菜」とも言われます。その難しさをプレッシャーとともに感じてしまうのは、私だけではないと思います。
料理研究家の土井善晴先生は「一汁三菜」は、料亭やハレの日用で家庭料理では「「一汁一菜」で十分であると、現代の暮らしに寄り添ってくれてほっとします。家庭料理の考え方や「和食」という型、「一汁一菜」の楽しみ方などは土井先生のご著書をぜひおすすめいたします。(「一汁一菜でよいという提案」)
話を戻します。
今や日本全国に展開するショップ茅乃舎は、レストラン茅乃舎の料理長が監修する『和グローサリー』がコンセプト。グローサリー(grocery)とは、生鮮食料品以外を扱う、食品雑貨店。そこへ、和食の象徴のような「手間隙かけただし」を持ち込んだのが、茅乃舎なのです。
簡単に煮出したり、ふりかけたりするだけで美味しくなる「だし」や、手軽に使えるこだわりの調味料、それらすべてに素材を感じる本格的な味は、家庭の食卓でつかうのが大前提。特に、「一汁」を豊かにしてくれるだしは、家庭での「和食」のハードルを下げてくれる、心強い存在として、多くの人に受け入れられていったのですね。
インスタントだしはこれまでもありましたが、安心・安全を求める風潮はより高まっています。素材に目が向き、材料が明らかになっていることや、誰が生産しているのか見えることが求められるようにもなっています。生産開始からすでに、そうした需要を満たしているのも、茅乃舎が人気の理由でしょう。
茅乃舎ショップの魅力
一番人気の「茅乃舎だし」は、焼きあご、かつお節、うるめいわし、真昆布といった厳選した国産素材から、その風味をバランス良く引き出した万能和風だし。もう、お味が気になりますよね。
店舗ではすべてのだしを試飲できるのも特徴です。店頭でもほっとでき、安心・満足したうえで買うことができます。画期的な販売ができるのは、自信の現れと思えますし、茅乃舎の店舗が直営のみだからでしょう。
デパートや商業施設への出店でも、品の良い店構えで心惹かれるブランドイメージを作り出しています。例えばコレド室町店は、建築家・隈研吾氏が店舗デザインを担当し、醤油蔵が表現された空間が演出されているんです。伝統を重んじた落ち着いた空間で商品を吟味できるのも、楽しみの一つかもしれません。
こうして直営販売と通信販売のみで茅乃舎ブランドを築き上げていることは、私たちにも大きなメリットがあります。品質の良いものを適切な価格で手にできること、直販ならではのきめ細やかな対応を受けられること、その上で、家庭料理が豊かになることです。
ギフト用はもちろん、すべてに「お料理読本」が付くのも嬉しいサービス。原料のことやだしの扱い方、お料理のレシピがたくさん載っていて重宝します。
茅乃舎のウェブサイトはさらに充実しています。旬や歳時記を取り入れたレシピや料理の提案、「和食」の特徴をさまざまに表現したコンテンツには、学べることもたくさんあるんです。
フリーズドライのお味噌汁
種類豊富な「だし」のほかにも魅力的な商品が並ぶなか、私のお気に入りが、フリーズドライのお味噌汁です。あえてギフトにもしたい一番の理由は、驚きと感動があるから。
1杯分の素材が4〜5センチほどの立方体に固められ、そこにお湯を注ぐだけでインスタントお味噌汁。ですが侮ってはいけません。だしとみそ、相性を吟味された具材がみるみるほぐれ、茅乃舎品質のお味噌汁が瞬時に出来上がる様子は感動もの。フリーズドライの製法技術と日本の伝統食文化がこんなにマッチするとは、思いませんでした。
種類も豊富で、たとえば「おだしがおいしい お味噌汁詰め合わせ箱」なら「海乃七草味噌/きのこの味噌汁/長葱とわかめの味噌汁/ほうれん草と卵の味噌汁/あおさの味噌汁/なめこの味噌汁/ごぼうの味噌汁」と7種類・各3食分入って、日替わりにしても飽きることはありません。
日持ちも十分するので時と場所を選ばず、さまざまなニーズに応えてくれます。朝食にご飯とこれ一杯、お弁当と一緒に持って行って、晩ご飯の一汁に、夜食に、どんなシーンにもマッチしそうです。
だしが決め手の「茶碗蒸し」や「だし巻き卵のもと」、洋風のスープもフリーズドライになっていて、バリエーション豊富なので、プチギフトにも使えるし、相手に合わせて選ぶのも楽しいひと時になります。
敬老の日ギフトにも
和食の基本のきとも言うべき「だし」の文化を、自然に楽しめるようになった私たち。食を豊かに味わえることに感謝するとき、その相手は食べさせてくれた両親や、つないでくれた祖父母たちではないでしょうか。
当たり前に食事をいただきながら、作る人の思いも一緒にいただいていたのですよね。これまでの積み重なった感謝の気持ち、恩返しする良い機会が敬老の日です。
たとえお料理のベテランであっても、たまには楽をしてもらいたいもの。食でつながり伝えられたことを、ちょっとした感動とともにお返しできたら、きっと素敵なギフトになるのではないでしょうか。
私もまずは一汁に心をこめて、作って、いただくことで、文化をつなげたいと思います。ときには茅乃舎だしの手を借りて、和食の心を思い出して、気負わずに楽に。いつか里山のレストランで本随に触れられる日を思い描きながら、フリーズドライのお味噌汁にお湯をかけるだけかもしれませんが。