親戚や親しい友人の子どもへなにかギフトを贈るとき、どんな風に選びますか?
誕生日や入学・進級・卒業祝いなど子どもをお祝いする機会は多く、子どもって驚くほどはやく成長してしまうので、機会があればなにか贈りたいものです。その子の成長にすこしでも寄与できたり、身近な人にも喜んでもらえたら嬉しいですよね。
そんな子ども向けギフトにも最適な、名作児童書の愛蔵版をご紹介します。
児童文学の金字塔 ミヒャエル・エンデ『モモ』
ドイツ人作家ミヒャエル・エンデ(1929-95)が1973年に発表した『モモ』は、日本では76年に出版され、なんと累計発行部数は341万部超え(2020年8月現在)というから驚きです。
どおりで、『モモ』は子どもの頃に読んだ記憶がある方も多いと思いますが、大人になってからも、特にここ最近、話題になることが増えています。
それは、人間がどうやって時間どろぼうから時間を取り戻していくか、とうテーマが、まるで時間に追われる現代人を予見しているかのようなんですよね。ファンタジーの世界から問われる普遍的なテーマには、深く考えさせられます。少女モモのように、子どもたちには自由で豊かな時間を過ごして欲しいと願います。
そんな名作を読むならば、2001年から刊行されている『愛蔵版 モモ』がおすすめです。
SHOP NOW2001年11月12日発行 本体2,800円+税 A5変・上製・函入・382頁
時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語 時間に追われ,人間本来の生き方を忘れてしまっている現代の人々に,風変りな少女モモが時間の真の意味を気づかせます.
出典元:岩波書店
装丁の魅力は、本棚にあって目立つカラーのケースに、本体はオレンジの布張りに型押しで「MOMO」と入ったシンプルさ。ケースもしっかりした厚みで本体をカバーしてくれて、出し入れもスムーズです。
そして、開いた時のサイズ、手触り、手持ちのフィット感までがすべて心地よいこと。1ページがスクエアに収まっているので目に入りやすく、読みやすさがあります。エンデ本人による挿絵とともにこげ茶色で、目にも優しい刷り色です。山吹色のしおりも映えますね。
大人目線にはなってしまいましたが、ギフトにするなら年齢を選ばないように思います。もちろん、小学校高学年以上の子なら、しっかりとこの世界観に浸れるはずです。
物語とリンクした二色刷り『はてしない物語』
次に同じくミヒャエル・エンデの代表作『はてしない物語』。世代によっては、映画『ネバーエンディングストーリー』を思い出す人も多いかもしれません。その最初の原作となっているファンタジー小説です。(のちに映画の原作からは降りている)
こちらは『モモ』より大きいどっしりタイプで、サイズは日本独自の菊判というもの。縦218mm×横152mm、590ページもあります。厚さをはかってみたところ、3.8センチもありました。
外函(ブックケース)は厚紙ですが、美しい絵(装画:ロスヴィタ・クヴァートフリーク)がカラー印刷され、シックなグレーが似合います。本を取り出すと、深い赤色の布張りとなっていて、これは主人公の少年バスチアンが古書店で手にした『はてしない物語』と同じ色(あかがね色)だということが分かります。
そしてこの本が本領を発揮するのは中を開いてからなんです。物語の世界にリンクして、二色に刷り分けられています。主人公が飛び込む世界「ファンタジーエン」でのストーリーはあかがね色、現実世界はグリーンに。色を追っていくことで、さらにハラハラどきどき没頭できる仕掛けです。
SHOP NOW1982年6月7日発行 本体2,860円+税 菊判 ・ 上製 ・ 590頁
バスチアンはあかがね色の本を読んでいた-ファンタージエン国は正体不明の〈虚無〉におかされ滅亡寸前.その国を救うには,人間界から子どもを連れてくるほかない.その子はあかがね色の本を読んでいる10歳の少年-ぼくのことだ! 叫んだとたんバスチアンは本の中にすいこまれ,この国の滅亡と再生を体験する.
出典元:岩波書店
こんなぶ厚い本は子どもにとって初めてになるかもしれません。惹き込まれる物語なので、読みきったという達成感もきっと得られる一冊です。娘は毎晩ベッドで読むと、グリーンのしおりをしっかり挟んで寝ていました。なんだか楽しい夢が見られそうですよね。
愛蔵版の条件とは
「愛蔵版」を広辞苑で引くと「書籍などで、大切に所蔵するのにふさわしく、装丁などを特に工夫した版」とあります。
漫画などでよく見かけるのは、昔の漫画を復刻するために、何巻分かを合本にしたり、判型を変えてまとめたりしたもの。漫画は古くなりやすいので、買い替え需要を狙った再発売の意味合いもありそうです。
対して名作児童書になると本来の「愛蔵」の意味合いが強く、普及版も出ているけれど、より特別な装丁で物語の世界観を表現しながら、長く大切に持っていたい、何度も読み返したい、そんな気分にさせてくれる書籍です。
『モモ』は岩波少年文庫版とケース入りの普及版ハードカバーが、『はてしない物語』は岩波少年文庫で上・下巻が、どちらも継続的に出版されていますが、選べるならば愛蔵版を推したいです。物語への愛着や、読んだときの記憶が、子ども心にも残るのではないかと思うのです。
ギフトにしたい愛蔵版の条件を整理してみると、「装丁が凝っていて豪華」「世界観を表現している」などデザインや質的な部分が一つ。もう一つは「本棚にあったら嬉しい」「読書以上の体験がありそう」など感情的な付加価値があることではないでしょうか。また、時代を選ばない永遠の名作で、世代を超えて共通の物語になることも、忘れてはいけません。
今回ご紹介したのは児童文学で定番ともいえる愛蔵版でしたが、ジャンルを問わずこだわりの愛蔵版を見つけるのも楽しいかもしれません。
贈るときに気をつけたいこと
子どもに贈る場合、小学校高学年くらいからを推奨年齢となっていますが、少し早めに贈るのはおおいにありです。実はご両親へのギフトでもあって、先に読んでもらってもOKですし、子どもが読めるようになるまでの成長を見守る楽しみも出てきますよね。
時期を選ばないギフトではありますが、注意しておきたいのは被らないかどうか。お洋服や消耗品の雑貨など複数あっても困らないものと違って、愛蔵版は一冊に価値があるからです。
永遠のベストセラーが多い絵本でよく起きるのが、“同じの持ってた”事件。誰もが知っているような名作絵本は親も買いやすく子どもも接触機会が多いので、新刊を贈る方が無難なこともあるのです。名作文学も念のため、贈る前に「愛蔵版を持っていないか」ずばり聞いてみましょう。
昨今は気軽に会えない事情もあって、思いを伝えるギフトの価値がより高まっていると感じます。ですから、事前リサーチもギフトの一環と考えて。また、贈るときに自身の体験や思い出なんかを伝えることも、素敵なコミュニケーションにつながりそうです。
愛蔵版の魅力を改めて見直してみると、大人になった今だからこそ手にしたいものでもありました。ですから子どもやギフトに限らず、ご自分用にもぜひおすすめしたいです。読書の秋もきっかけですね。
わが家の次なる狙いはディケンズの『愛蔵版 クリスマス・キャロル』。親から子への流行り物とは別のクリスマス・ギフトにして。子どもからおばあちゃんおじいちゃんにおねだりしちゃうのもありかもしれませんね(笑)。